Column / コラム


アルペンスキーのトレーニングについて思うこと


アルペンスキーのトレーニングって巨大なピラミッドを建てようとするようなものだ、と常々思っていて、そう言い続けてきました。

ピラミッドを建てるためには、まずその底面の基礎固めをした後、上に向かって石を積み重ねて行かなければなりません。
底面が小さいと、どんなに頑張って積み重ねても低いピラミッドしか建てることができないので、まずその底面を広げる努力からしなければ意味がない、というわけです。

ピラミッドの底面はスキーの基礎技術です。
どんなスピードでも、どんなターン弧でも、どんな雪質でも、あるいはどんな板でも上手に滑ることができる人は、色々な基礎技術を身に着けており、この底面が広いです。

「基礎」というと、「ああ、技術選とかデモ選とかあっちの世界ね」と思う人が多いかもしれませんが、それだけではありません。スキーのレースで速く滑るための基礎技術を身に着けるための練習方法として、スケーティング、プロペラ、片足スキー、あるいはジャンピングスタートみたいなものも私達は昔から取り組んできましたよね。

雪国育ちで子供の頃からスキーをしてきた地ガキの連中は、林の中に入って行って木の下をくぐってみたり、岩を飛び越えてみたり、深雪やコブを楽しんだり、雨の中でもひたすら滑り続けたりしてきているので、ピラミッドの底面がとても広いです。
ところが大人になってからスキーを一生懸命やるようになった連中は、天気のいい日に整地された人工雪の斜面ばかりを滑っていたりして、持っている技術のバリエーションがとても少なかったりするのではないでしょうか。



一方で、ポール練習を繰り返すのは、石を上に積み上げてピラミッドを高くしようとするのに似ていると思っています。
ポール練習を繰り返すことにより、ライン取り、入射角などが良くなり、タイムを縮めるためにレース中のフォームなどを習得したり、スピードに対する恐怖心をなくして攻撃的に滑ろうと努力をするなど、競技スキーヤー達はポール練習に多くの時間を費やします。

しかし、どんなにポール練習を繰り返しても、底面が小さいピラミッドでは、建てられるピラミッドの高さに限界があるのです。
アルペンスキーのレースでも、天候、雪質、斜面、ポールセット、スタート順、あるいはレース中の予期せぬ障害・妨害など、色々な状況が発生しうるわけで、色々な基礎技術を身に着けている選手はどのような状況にも対応することができ、条件が悪い時ほど他の選手と差がついたりするものです。

私達社会人レーサーは、雪国の子供や学生レーサー達と比べるとかなり限られた時間の中でトレーニングを行い、レースに参戦するわけですが、ともすれば底面の小さいピラミッドを一生懸命高く建てようとし続けて、伸び悩んだりしがちです。

効率の良い練習方法を考えて、底面を広げながら高いピラミッドを建てれるようにトレーニングを積んでいきたいものです。


例えば、毎年20日程度しか滑れないのであれば、60日滑れる学生と同じ練習をするのは無理なのですから、学生が1年でやるような練習を3年計画ぐらいで取り組んでみるのも一つの方法かもしれません。


 ◇1年目はポールを一切滑らずに徹底的に様々な基礎練習ばかりを繰り返し底面を広げる。

 ◇2年目はレースには参戦せずにポール練習だけをひたすらす続けピラミッドの高さを追及する。

 ◇そして3年目は実戦練習としてレースに片っ端から出場し続ける。

このように60日を使った場合と、毎年毎年、基礎練習もしてポール練習もしてレースにも参戦していく場合とを比べてどっちが60日滑走後に速くなっているでしょうか?

極端かもしれませんが、これぐらい大胆なことをやらないと、中々自分の滑りは変えられないもの。
基礎練習を疎かにせず、自分に欠けている基礎技術を身に着け、荒のない底面を作り上げることをクラブの皆で考えて、効率的なトレーニングをしてくことができればと思っています。


皆で一緒に高いピラミッドを建てましょう!



2015年7月 福岡 秀幸